NPO マザーツリープロジェクト活動レポート - 2025年4月20日

現地の状況

2025 年 2 月、支援活動に先立ち、マンキラ村を含むカファ地方の実情を把握するために 546 世帯を対象とした社会調査を実施しました。調査の結果、この地域では多くの世帯がコーヒー、小麦、トウモロコシといった農産物の生産を主な収入源としています。しかし、同地域の 1 人当たり年間所得は平均で約 10 万円と、エチオピア全体の平均(約 18 万円)を大きく下回る水準にとどまっており、生活の厳しさが浮き彫りになりました。また、教育面でも深刻な課題が明らかになりました。世帯主の平均学歴は 4.8 年 で、小学校(6 年間)を修了していない人が大多数を占めています。加えて、教育・医療サービスへのアクセスの悪さも大きな障壁となっています。マンキラ村には小学校がありますが、校舎や黒板などの設備は老朽化が進んでいます。さらに、近隣に中学校がなく、進学するには 10 キロ以上離れたボンガ市まで通う必要があります。公共交通が整っていないため、多くの子どもたちは親元を離れてボンガ市の寮や親せきの家に暮らさなければなりません。

医療についても状況は同様です。簡単な診察や薬の処方でさえ、村には十分な医療機関がなく、ボンガ市まで出向く必要があります。このような現状は、日々の健康管理や緊急時の対応に大きな不安を抱える原因となっています。今回の調査によって、こうした生活の実態が数字と証言を通じて明らかになりました。私たちは、こうした現状を踏まえ、科学的根拠(エビデンス)に基づいた効果的な支援を今後展開してまいります。

 

なぜ虫下しの支援なのか

このような厳しい生活環境の中で、私たちは支援の第一歩として「子どもたちへの教育支援」を開始しました。とはいえ、最初に実施した支援は教科書の配布や校舎の整備ではなく、「虫下し(寄生虫駆除薬)」の提供でした。教育支援なのに、なぜ虫下しなのでしょうか?——その理由には、明確な科学的根拠があります。

エチオピアではマラリアや下痢症など、様々な感染症が子どもたちの健康を脅かしています。中でも寄生虫感染は深刻で、専門家によれば、子どもの感染率は 5 割から 8 割とも言われています。感染すると、腹痛や下痢、栄養不良などの症状が生じ、日常生活に支障をきたすだけでなく、学業にも悪影響を及ぼします。こうした健康状態と教育効果の関係に注目したのが、当時ハーバード大学に在籍していたマイケル・クレーマー教授です。彼がケニアで行った研究では、学校で子どもたちに虫下しを配布した結果、寄生虫の感染率が大きく下がっただけでなく、児童の年間出席率が平均で8%も向上しました。これは、体調の改善がそのまま学習機会の増加につながることを意味しています。クレーマー教授のこの研究成果は、貧困層の子どもたちにとって「健康への支援」が「教育への支援」に直結することを世界に示し、2019 年 にはノーベル経済学賞の受賞につながりました。

子どもたちの教育の機会を支えるには健康が欠かせないという実証的知見を踏まえ、私たちは虫下しの提供を教育支援の第一歩としました。

 

マンキラ村での虫下しの提供

2025 年 2 月、虫下しの薬を届けるため、マンキラ村を訪問しました。村には舗装道路が通っておらず、薬を担いで約 1 時間半の山道を歩く必要がありました。

訪れたのは、村にある唯一の小学校です。この日、164 名の児童が集まっており、私たちは現地の医師の監修のもと、低学年の子どもでも服用できるようシロップタイプの虫下しを提供しました。

校長先生や教師の方々への聞き取りでは、児童の健康問題が深刻であることが改めて浮き彫りになりました。体調不良による欠席が常に 3~4 割に上るとされ、実際、この学校には約 270 名の児童が在籍していますが、当日の出席者数からも約 4 割が欠席している状況が確認されました。今回は、欠席していた児童の分の薬も学校に預け、後日配布してもらうよう依頼しています。

このように、虫下しの提供は、教育現場で認識されている課題と合致しており、現地のニーズに即した有効な支援となりました。

 

今後の展望

今後の展望として、まずは虫下し支援のスケールアップが重要な課題です。寄生虫の感染は、児童本人の健康だけでなく、周囲の感染者からの再感染リスクも大きいため、個別の対応では限界があります。今回の支援では、第一段階として小学生を対象に実施しましたが、今後は中学生や未就学児、大人にも対象を広げ、地域全体の感染リスクを下げる取り組みを進めていきます。

また、虫下しに限らず、開発経済学の分野では貧困削減に有効とされるさまざまな実証研究が蓄積されています。私たちはこうした科学的知見をもとに、教育や健康分野に加え、所得向上を目指す生計支援にも取り組んでいきます。地域に根ざした支援を重ねることで、持続的な暮らしの改善と貧困の連鎖からの脱却を目指してまいります。

 

参考文献

Miguel, Edward and Michael Kremer (2004) Worms: Identifying Impacts on Education and Health in the Presence of Treatment Externalities. Econometrica 72(1) 159-217.