NPO マザーツリープロジェクト活動レポート - 2025年12月13日
現地の状況 2025 年 11 月、カファ地方の 296 世帯を対象に家計調査を実施しました。調査を通じて、この地域の多くの世帯がコーヒーに加えて、小麦やトウモロコシなどの農産物の生産・販売を重要な収入源としていることが改めて確認されました。その一方で、収穫が終わった後の農作物の「貯蔵」の段階で、家計にとって無視できない損失が生じていることが見えてきました。たとえば、現地では収穫した作物を薄いビニールでできた袋に入れ、土の床の上に直接置いて保管することが一般的です。雨季や湿度の高い時期には、床面からの湿気が袋の中に移り、作物がしけってカビが発生しやすくなります。また、密閉性が低い袋では害虫が侵入し、食害が進みます。さらに、袋の周囲はげっ歯類の被害も受けやすく、かじられて穴が開けば、そこから湿気や害虫の影響が一気に広がります。その結果、作物の量が減少し、また品質が落ちるという、損失が生まれているのです。 貯蔵に限らず、作物の乾燥、運搬、販売など、作物の収穫から消費者に届けられる過程において、生じる損失を、「収穫後損失」といいます。国際連合食糧農業機関(FAO)の推計によると、サハラ以南アフリカで生産される穀物の最大 20.5%が生産と消費の間で失われているとされています。特に収穫後の取り扱いおよび貯蔵損失では 8%が失われており、農作物の適切な貯蔵が求められています。 なぜ収穫後損失を減らすための貯蔵改善が重要なのか このような状況を踏まえ、私たちは農家の貯蔵状況を改善する支援を開始しました。農作物を適切に保存できる環境を整備することは、以下の三つの理由から、同じ畑・同じ労働量でも家計の成果を大きく変える可能性があります。第一に、農作物量が減ることはそのまま収入の減少につながります。収穫が成功しても、貯蔵中に失われた分は販売できないため、得られる現金収入は目減りしてしまいます。第二に、品質低下は販売価格に影響します。湿気や害虫の影響を受けた作物は、買い取り価格が下がってしまう場合もあります。また、害虫への対応として殺虫剤の使用が増えると、追加の出費が生じるだけでなく、健康面・環境面でも望ましくない影響が懸念されます。第三に、貯蔵が安定すれば販売の選択肢が広がります。収穫直後は市場に作物が一斉に出回り、価格が下がりやすい時期です。しかし、一定期間しっかり貯蔵できれば、価格が高騰するタイミングを待って売ることができ、同じ収穫量でも収入を増やせる可能性があります。貯蔵状況の改善のために、私たちは収穫後損失を抑える具体的な技術として PICS バッグに注目しました。PICS バッグは、一般的な袋よりも密閉性が高い多層構造の貯蔵袋です。袋の内部を外気と遮断することで、化学薬品を使わずに、穀物を害虫から効果的に守ることが示されています。倉庫建設のような大規模投資を必要としない、小規模で導入できる貯蔵改善策であることから、比較的安価で収穫後損失を減らすことができます。実際に、タンザニアで実施された研究では、PICS バックが、収穫後の損失を大幅に減少させ、小規模農家の全体的な生計向上に寄与したことを明らかにしました。 しかし、良い技術であっても自然に普及するとは限りません。調査や現地での観察から、普及の障壁は大きく三つあると考えられます。第一に価格です。通常の保存袋が 30〜40 円程度で入手できるのに対し、PICS バッグは 150〜200 円と高価であり、特に収穫直後で現金に余裕のない時期には購入が難しくなります。第二にアクセスの問題があります。農村部ではそもそも商品を取り扱う場所が限られ、必要性を感じても容易に手に入れることが困難です。第三に理解の問題があります。PICS バッグがなぜ効果を持つのか、どう使えば性能を発揮できるのか、乾燥や密閉の重要性などを十分に理解できていないと、適切に使われず期待した効果が得られない可能性があります。 PICS バックの配布 2025 年 11 月、カファ地方の 168 世帯に対して、収穫後損失の問題と、PICS バックの利点について 直接説明し、PICS バックを配布しました。 2 月時点の調査では、PICS バックを知っている世帯が約 48%に対し、実際に使用している世帯はお よそ 19%でした。使用していない理由について、価格の高さやアクセスの悪さが挙げられていたことか らも、今回の支援は現地のニーズに即した、有効なものになりました。また地元の小売店での聞き取り でも、PICS バックの需要が拡大していることが分かり、今後ともさらなる支援が求められます。 今後の展望 今後の展望として、PICS バッグを現地で継続的に使用されることが課題です。そのためには、適切 な使い方を伝え、実際の効果を実感してもらうことが大切です。また価格やアクセスの問題に対して、...