日本屈指のグランメゾン「アピシウス」で、コースを締めくくる最後の一杯に提供され ているのが「マザーツリーコーヒー」。シェフソムリエの情野博之氏と、コーヒー鑑定士 の石原豊史氏が、その魅力と美味しさについて語り合います。
Profile
「アピシウス」シェフソムリエ 情野博之
国際ソムリエ協会認定ソムリエ。2007 年よりフランス料理「アピシウス」シェフソムリエ を務める。2017 年にはNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で密着取材を受けるなど、ソムリエ界のトップランナーとして活躍。コーヒーインストラクター2 級。
NPO 法人マザーツリープロジェクト理事 石原豊史
SCAA/CQI 認定 Q グレーダーで、ブラジルサントス商工会議所認定クラシフィカドー ルの資格ももつ、この道28 年のコーヒー鑑定士。マザーツリーコーヒープロジェクトに参加し、エチオピア・カファ地方にも赴いた。
■グランメゾン「アピシウス」とは
グランメゾンとは、提供される料理はもちろん、サービスから調度品にいたるまで、す べてに妥協を許さないフレンチの最高峰。国内に数十軒しかないグランメゾンのなかでも、1983 年創業以来、日本のフランス料理界を牽引しつづけているのが「アピシウス」 です。
東京・日比谷。丸の内仲通りに面したビルの地下に、非日常の空間が広がる。
エントランスを抜けると現れるウェイティングバー。食前酒や食後のコーヒーなどを楽しめる。
ロダン、シャガールなど、美術品が点在する店内。さながら美術館の様相。
ゆったりとした空間に並ぶメインダイニング。
店内のワインセラーには常時 3,000 本ほどがラインナップ。店外のセラーとあわせると4 万本近いストックと、日本でも随一の品揃え。
■ワインもコーヒーも、テロワールを楽しむ時代
―情野さんは「アピシウス」シェフソムリエをつとめられていますが、ワインのプロである情野さんがコーヒーインストラクターの資格をおもちなのはなぜでしょう?
情野:お料理に合わせたワインのご提案はもちろんですが、われわれソムリエの仕事は、 食前から食後まで、すべてのシーンをトータルで演出すること。食事のフィナーレを華 やかに飾っていただくため、質の高いコーヒーにこだわりっています。ワインだけでな く飲料全体の知識が求められるソムリエの世界では、コンクールでコーヒーに関する課題が出ることもあるんですよ。
石原:コーヒーとワインの世界はとても近しいものがありますよね。最近私はSCAA/CQI 認定 Q グレーダーというスペシャリティコーヒーの認定資格を取ったのですが、コーヒー鑑定の世界でもソムリエさんのノウハウが生かされています。サードウェーブの時代になって、農園ごと、区画ごとのコーヒーを味わうようになり、さらにワインとの共通点が増えたと感じます。
情野:ワインでいう「テロワール」というものですね。
石原:ここ10 年くらいで、コーヒーもテロワールの時代になってきましたね。どんな 場所でどんなふうに栽培されたコーヒーなのか、個々に評価されるようになって。豆のポテンシャルを引き出すため、ペーパードリップが注目されたことも我々日本人にとってはうれしい変化でした。
■世界で注目される日本のペーパードリップ文化
情野:サードウェーブが流行ったとき、こぞってペーパードリップが採用されましたが、 日本の喫茶店では「なんでいまさら?」と(笑)。
石原:まさに逆輸入ですよね。サードウェーブがきはじめた頃、ニューヨークで視察をしたら、その頃はみんな日本製の器具を使っていました。ペーパードリップが日本独自に発展した理由は、おそらく「水」なんですよね。ヨーロッパは硬水なので、エスプレッソで高圧をかけて抽出しないと味が出ない。日本は軟水なので、たとえば昆布も水につけておくだけで味が滲み出る。日本の出汁文化と同じ理由で発展してきたと考えられます。
情野:フランスだとコーヒーといえばエスプレッソで、小さなデミタスカップでパッと 飲んで、さぁ仕事にいこう!みたいな飲み方なんですよね。ゆっくりコーヒーを飲むというより、合間合間にキュッと飲むイメージ。あと、フランスにはアイスコーヒーの文化もないですよね。日本のコーヒーって、バラエティー豊かなのもよさのひとつだと思 うんです。今日はちょっと寒いから苦味の強いしっかりしたコーヒーが飲みたいなとか、 今日は涼やかだからすこし爽やかなものがいいなとか、暑いからアイスコーヒーにしよ うとか。気候や気分に合わせていろいろなバリエーションを楽しめるところに懐の深さを感じます。
■フレーバーや味の変化を楽しみながら、じっくり味わいたい一杯
―「アピシウス」で提供するコーヒーには、どんなことを大切にしていますか?
情野:やはり、コースの最後を華やかに締めくくっていただきたいので、苦味だけでなく、旨味や酸味といった立体的な味わいのあるコーヒーをお出ししたいと思っています。 マザーツリーコーヒーは、お客さまに「コーヒーだけ飲みにくることはできませんか?」 ときかれるくらい評判がいいんです。
石原:それはうれしいですね。情野さんからみて、マザーツリーコーヒーの味わいはどのように感じられますか?
情野:旨味を感じさせる、ちょっと鰹節のようなお出汁系の香りがしますね。そこにしっかりした酸味が加わることで、味わいの輪郭がすごくしっかりしてくる。よく、お蕎麦にネギを入れますが、あれは蕎麦つゆの出汁の旨味をネギの青い香りが引き締めて、 味わいに立体感を出してくれているんです。それに似ています。
石原:なるほど。コーヒーの酸味には、リンゴ酸、クエン酸、キナ酸とさまざまな種類がありますが、マザーツリーコーヒーはレモンのようなクエン酸ではなく、甘みのあるリンゴ酸の酸味を感じるはずです。
情野:リンゴ酸は口の中を引き締めてくれる作用があるから、輪郭がはっきり出てくるんですね。うちのお客さまはソースやクリームたっぷりのフレンチを召し上がったあとに飲まれるので、心地よくリフレッシュできますね。
石原:時間をかけて、ゆったり食後の時間を楽しんでもらえたらうれしいですね。
情野:このコーヒーのすごいところは、飲み終わってしばらく経ってもまだ余韻が残っているところ。ワインと同じで、時間を追うごとに味が変化するのもおもしろいです。 はじめはソフトでまろやかな「完全な球体」というイメージなのですが、温度が下がっ てくると、メリハリが出て味がシャープになってくる。フレーバーや味の変化を楽しみ ながら最後まで飲んで、さらにもう一杯飲みたいと思えるコーヒーです。
石原:本当にそのとおりで、いいコーヒーかどうかは冷めてから飲むのが一番わかりやすいんですよね。重い苦味や渋さなど、コーヒーのよくないところは冷えたときに出てきてしまう。逆に、いいコーヒーは冷めるとまた違ったキャラクターが出てきて魅力的なんです。
■コーヒー発祥の地で、自然のままに育つマザーツリー
―“豆のよさ”にはどういった要因が関わってくるのでしょう?
情野:ブドウと同じで、コーヒーも標高の高さが重要になりますよね。マザーツリーは どれくらいの高さところにあるのですか?
石原:2000 メートル近いところです。
情野:標高 2000 メートルというと、昼夜の寒暖差が相当激しいですよね。コーヒーの果実の糖度が高くなるし、木に成っている期間も長く、豆も熟している。そういう条件が、旨味や酸味に関わってきますよね。
石原:おっしゃるとおりで、土地のポテンシャルが非常に高い。マザーツリーというのはアラビカ種誕生の地であるエチオピアのカファ地区に自生する、樹齢 500 年以上の古木なんです。
実は私自身、実際エチオピアに行ってマザーツリーに出会うまで、原種に近いものはあまり美味しくないんじゃないかと不安をもっていました。しかし、飲んでみると甘さやボディ感がすばらしくて。
情野:これだけ農業が近代化されているなかで、マザーツリーのように自然のまま育っているものはほとんどないんじゃないでしょうか。
石原:私もブラジルをはじめ、グァテマラ、コロンビアとさまざまなコーヒー農園を渡り歩いてきましたが、ジャングルのなかにあるフォレストコーヒーというのははじめてみました。自然のなかで育って、それを現地の方が摘んで加工するというのは、コーヒ ーのなかでも異例の中の異例だと思います。ましてやそれが、コーヒー誕生の地ですからね。
コーヒーの原木とされるマザーツリーと、その周辺地域の豆のみを使用したシングルオリジン。
情野:いやぁ、そんなエピソードを聞くと、ますます味わい深い。ミルクも砂糖もなく ストレートで飲みたいですし、これにあわせて何かを食べたいとも思わない。500 年も昔から続く自然の産物に対し、感謝しながら飲みたいですね。
石原:本当にそうですね。地球温暖化の影響で、2050 年にはエチオピアのコーヒー品種が半減するとまで言われているいま、生物の多様性の問題は避けて通れない課題です。 そういう意味でも、母なる木であるマザーツリーを守る活動は、社会貢献のひとつ。おいしさを追求するだけでなく、大切にしていきたいと思います。
■「アピシウス」で提供される味わいをご家庭で
淹れたてはもちろん、温度が下がってもメリハリのあるシャープな味わいを楽しめる 「マザーツリーコーヒーG1」は、ゆっくり会話を楽しみたいシーンや、デスクワークのお供にもぴったり。飲むたびに体がリフレッシュするような感覚を味わえます。
※商品は6月上旬より発売予定。